パートナー契約を結んだだけで、自社プロダクトが売れていく ── そんなことはまず起こりません。 にもかかわらず、多くの組織で「注力パートナー」は感覚で決まっています。声が大きいパートナー、付き合いの長いパートナー、たまたま大きな案件を持ってきてくれたパートナー。それらは 結果 としての注力先であって、戦略 としての注力先ではありません。
この章では、感覚で運用されてきた「重点パートナーの絞り込み」を、再現可能な判定軸に置き換える方法を扱います。
なぜ「均等支援」は機能しないのか
パートナーは数十社、数百社にのぼります。一方で支援リソース ── 営業推進担当の数、研修コンテンツ、共同マーケ予算、訪問できる物理的な時間 ── は有限です。だから、全パートナーに均等にリソースを投下するのは戦略ではなく、ただの放棄に近いと言えます。
実際、業界の主要プレイヤーたちも同じ前提に立っています。
重要なのは、絞り込みの判定軸を 事前に 持っておくこと。事後的に「あそこは伸びてるから注力する」と決めるのは、結果論にすぎません。
必須4条件 ── 1つでも欠けたら重点支援から外す
まず足切りに使うべき4つの必須条件があります。これらを満たさないパートナーにいくら投資しても、構造的に動きません。
- 営業人員数の多さ 個人で売る人ではなく、組織として一定の営業力を持っているか
- 提案先企業属性が自社のターゲットにマッチしているか パートナーが日常的に接している顧客と、自社の理想顧客像が重なるか
- マージンが営業担当個人の成績に反映されるか 会社のP/Lだけでなく、目の前の営業の評価・賞与に響くかどうか
- 営業担当との直接コミュニケーション環境があるか 窓口を経由しないと現場に届かない構造では、いくら情報を流しても届かない
特に 3つ目「マージンが営業担当個人の成績に反映されるか」 は、見落とされがちで、しかも結果に効きます。これは業界登壇者の中でも繰り返し語られている論点です。
営業担当は誰しも、自分の予算を背負っています。その予算に最も近づく方法を選ぶ ── これは営業の世の常で、説得や勉強会では覆りません。だから、ここが構造的に欠けているパートナーは、いくら関係を深めても拡販には繋がりにくいのです。先に見極めて、別の関わり方(紹介依頼に絞る等)に振るほうが健全と言えます。
マージン以外にも「予算(本気度)」を必須確認項目に置いている事例もあります。
加点5条件 ── 優先度の差をつける
必須4条件を満たしたパートナーの中で、Tier 1 / Tier 2 / Tier 3 をどう振り分けるか。ここで効くのが加点条件です。
- マージンのインパクト強度 個人成績への反映率の高さ。20%なのか、50%なのか
- 決裁者との接点 パートナー側の決裁ライン、特に役員クラスと話せるかどうか
- 拡販推進担当者(チャンピオン)の設置可否 パートナー社内に、自社プロダクトを推進してくれる旗振り役を置けるか
- 共同マーケティング協力度 共催ウェビナー、事例制作、メール配信など、共同施策を一緒にやれるか
- 本業とのシナジー強度 パートナーの本業を補完する位置づけになれているか。セット販売できるか
必須条件は二択(YES/NO)で足切りに使い、加点条件は強度(弱・中・強)でスコアリングします。これだけで、「なんとなく注力先」は「数字で説明できる注力先」に変わります。
実際の Tier 運用を、業界登壇者がそのまま語ってくれています。
Tier の判定が「金額規模」だけでなく 「協業の深度」(部門間連携や、会社対会社の関係性)でも決まっているのが特徴的です。これはまさに、加点条件が単一軸ではなく多軸であることを示しています。
加点条件「決裁者との接点」「拡販チャンピオンの設置」については、こんな運用論もあります。
大手パートナーは「1事業部 = 1社」で見直す
ここでひとつ、大企業を相手にしている場合の落とし穴があります。
大手パートナーは、事業部や拠点ごとに事実上の独立した会社として動いています。営業の評価制度も、決裁ラインも、扱う商材ポートフォリオも違います。にもかかわらず「◯◯社は当社のキーパートナー」と一括りに扱うと、必須4条件も加点5条件も判定不能になります。
だから、大手は 「1事業部 = 1社」「1拠点 = 1社」 で見直します。同じ社名でも、A事業部はTier 1、B事業部はTier 3、ということは普通に起こります。むしろ、それを見分けないと支援リソースは霧散してしまうのです。
「絞る」と「集中投資する」は別の話
ここまで読むと「結局、パートナー数を減らせばいいのか?」と思われるかもしれません。違います。
パートナー数を絞るべきなのは、リソースが極小(部門長兼任で1〜2名)の場合だけ。それ以外は、パートナー数は維持しながら、Tier運用で投資先を可視化する のが基本戦略です。
パートナー数自体を減らしているのではなく、「投下リソース=担当者を張る対象」を全体の 5% に絞っているという運用です。残り 95% との関係を切るわけではない、というのがポイントです。
さらに、Tier = 静的なランクではなく 「投資配分の可視化レイヤー」 として動的に運用する視点もあります。
Tier 1 だけに張ると、数年後の Tier 1 候補が枯渇します。だから Tier 2 / Tier 3 にも前倒しで投資する。「絞る」ではなく「配分する」発想です。
「注力パートナーから紹介はくる」── それは科学化されているか?
この章で扱った判定軸を提案すると、しばしばこんな反応が返ってきます。
「うちはなんだかんだ、注力パートナーから紹介がくる。今のやり方で回っているから、わざわざ判定軸とかいらない」
その通り、回っているのは事実でしょう。けれど、回っている 理由 は説明できるでしょうか?
・なぜそのパートナーから紹介が来るのか
・どの担当者が、どんな話題のときに動いてくれるのか
・他のパートナーに同じ条件を整えれば、同じように紹介が来るのか
ここが言語化されていなければ、それは 結果論 です。たまたま機能している関係を「うちのやり方」と呼んでいるだけ。再現できないものは、伸ばせません。
Tier 区分は、ランク付けではなく 科学化の手段 です。誰がやっても同じ判定ができる軸を作ること。それができれば「いま回っている関係」を、組織として再現可能な資産に変えていけます。
そして、Tier運用のためのデータ ── 営業人員数、マージン反映度、決裁者接点、共同マーケ実績 ── は、すべて 記録(System of Record) として持てます。次章以降では、その記録の構造と、そこから「次の一手」を導く仕組み(System of Action)を扱っていきます。
- Tierティア
- パートナーを重要度別に分類する区分(Tier 1 / 2 / 3 など)。重点パートナー設計の基本概念。