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重点パートナーの絞り込み
— Tier設計と集中投資

感覚で「注力パートナー」と呼んでいるものを、科学で再定義する。
"なんとなく回っている" と "再現可能に伸ばせる" の間には、構造の差がある。

パートナー契約を結んだだけで、自社プロダクトが売れていく ── そんなことはまず起こりません。 にもかかわらず、多くの組織で「注力パートナー」は感覚で決まっています。声が大きいパートナー、付き合いの長いパートナー、たまたま大きな案件を持ってきてくれたパートナー。それらは 結果 としての注力先であって、戦略 としての注力先ではありません。

この章では、感覚で運用されてきた「重点パートナーの絞り込み」を、再現可能な判定軸に置き換える方法を扱います。

01

なぜ「均等支援」は機能しないのか

パートナーは数十社、数百社にのぼります。一方で支援リソース ── 営業推進担当の数、研修コンテンツ、共同マーケ予算、訪問できる物理的な時間 ── は有限です。だから、全パートナーに均等にリソースを投下するのは戦略ではなく、ただの放棄に近いと言えます。

実際、業界の主要プレイヤーたちも同じ前提に立っています。

全部のパートナーさんとはやはり実施できないので、弊社の中でもここは注力パートナーなのか否かは決めてたりもします。
— 樫山知拓 氏(株式会社インフォマート パートナー事業部 副部長) 出典:パートナー様からの商談数(紹介数)を伸ばすためにやるべきこと(partnersales.biz セミナーレポート)
コンテンツを作っても見ないパートナーは見ないわけです。見ないということは、おそらく当社のビジネスにフィットしていないということだと思うので、リソースが潤沢にあるわけではないので、ある程度取捨選択するということはとても大事にしています。
— 荒井 氏(LINE WORKS 株式会社) 出典:パートナー売上比率9割以上!HENNGE・LINE WORKSの2社の秘密に迫るパートナーセールスセミナー(partnersales.biz セミナーレポート)

重要なのは、絞り込みの判定軸を 事前に 持っておくこと。事後的に「あそこは伸びてるから注力する」と決めるのは、結果論にすぎません。

02

必須4条件 ── 1つでも欠けたら重点支援から外す

まず足切りに使うべき4つの必須条件があります。これらを満たさないパートナーにいくら投資しても、構造的に動きません。

必須条件(足切り)
  1. 営業人員数の多さ 個人で売る人ではなく、組織として一定の営業力を持っているか
  2. 提案先企業属性が自社のターゲットにマッチしているか パートナーが日常的に接している顧客と、自社の理想顧客像が重なるか
  3. マージンが営業担当個人の成績に反映されるか 会社のP/Lだけでなく、目の前の営業の評価・賞与に響くかどうか
  4. 営業担当との直接コミュニケーション環境があるか 窓口を経由しないと現場に届かない構造では、いくら情報を流しても届かない

特に 3つ目「マージンが営業担当個人の成績に反映されるか」 は、見落とされがちで、しかも結果に効きます。これは業界登壇者の中でも繰り返し語られている論点です。

パートナーさんの営業の方々の評価制度を必ず確認するというお話です。営業マンの方ってどうしても自分の評価にならない商材ってなかなか売りたがらないんです。
— 樫山知拓 氏(株式会社インフォマート) 出典:パートナー様からの商談数(紹介数)を伸ばすためにやるべきこと(partnersales.biz セミナーレポート)

営業担当は誰しも、自分の予算を背負っています。その予算に最も近づく方法を選ぶ ── これは営業の世の常で、説得や勉強会では覆りません。だから、ここが構造的に欠けているパートナーは、いくら関係を深めても拡販には繋がりにくいのです。先に見極めて、別の関わり方(紹介依頼に絞る等)に振るほうが健全と言えます。

マージン以外にも「予算(本気度)」を必須確認項目に置いている事例もあります。

まず予算ですね。どれくらいの予算を本気で持たれているのかは間違いなく聞きます。4月〜5月くらいまでに部長はある程度方針を固めて支店に展開していくので、そのタイミングで必ず「どういう戦略を持っていらっしゃるんですか」と聞いて、その背景・目的と予算をセットで確認します。
— 清水健太 氏(株式会社SmartHR パートナービジネス事業本部 第2アライアンス営業部 部長) 出典:パートナービジネスのTier階層・重要度ランク戦略と組織攻略のリアル ― スマートドライブ×SmartHR(partnersales.biz セミナーレポート)
03

加点5条件 ── 優先度の差をつける

必須4条件を満たしたパートナーの中で、Tier 1 / Tier 2 / Tier 3 をどう振り分けるか。ここで効くのが加点条件です。

加点条件(優先度)
  1. マージンのインパクト強度 個人成績への反映率の高さ。20%なのか、50%なのか
  2. 決裁者との接点 パートナー側の決裁ライン、特に役員クラスと話せるかどうか
  3. 拡販推進担当者(チャンピオン)の設置可否 パートナー社内に、自社プロダクトを推進してくれる旗振り役を置けるか
  4. 共同マーケティング協力度 共催ウェビナー、事例制作、メール配信など、共同施策を一緒にやれるか
  5. 本業とのシナジー強度 パートナーの本業を補完する位置づけになれているか。セット販売できるか

必須条件は二択(YES/NO)で足切りに使い、加点条件は強度(弱・中・強)でスコアリングします。これだけで、「なんとなく注力先」は「数字で説明できる注力先」に変わります。

実際の Tier 運用を、業界登壇者がそのまま語ってくれています。

我々は現在、Tier 1・2・3という形で3つに分けています。Tier 1では年間で数億円レベルの実績があるパートナー様。一つ特徴的なのは、単にメイン商材の販売スキームだけでなく、さまざまなお互いの部門同士で連携して、会社の面での協業につながっていることです。
— 高田亮介 氏(株式会社スマートドライブ パートナーグループ統括部長) 出典:パートナービジネスのTier戦略と組織攻略のリアル ― スマートドライブ×SmartHR(partnersales.biz セミナーレポート)

Tier の判定が「金額規模」だけでなく 「協業の深度」(部門間連携や、会社対会社の関係性)でも決まっているのが特徴的です。これはまさに、加点条件が単一軸ではなく多軸であることを示しています。

加点条件「決裁者との接点」「拡販チャンピオンの設置」については、こんな運用論もあります。

キーマンは全て役職者に置くことを大事にしています。現場の方針を決めているのは部長や課長だということもありますし。
— 清水健太 氏(株式会社SmartHR) 出典:パートナービジネスのTier戦略と組織攻略のリアル ― スマートドライブ×SmartHR(partnersales.biz セミナーレポート)
04

大手パートナーは「1事業部 = 1社」で見直す

ここでひとつ、大企業を相手にしている場合の落とし穴があります。

大手パートナーは、事業部や拠点ごとに事実上の独立した会社として動いています。営業の評価制度も、決裁ラインも、扱う商材ポートフォリオも違います。にもかかわらず「◯◯社は当社のキーパートナー」と一括りに扱うと、必須4条件も加点5条件も判定不能になります。

全国の営業所のある企業さんって、4月からバッと異動が発生したりするんですよね。そこで関係性がリセットされてしまうことが結構あります。
— 高田亮介 氏(株式会社スマートドライブ) 出典:パートナービジネスのTier戦略と組織攻略のリアル ― スマートドライブ×SmartHR(partnersales.biz セミナーレポート)
パートナーさんはトップダウン組織の傾向も強いと感じています。方針にかなり左右されてしまう。
— 清水健太 氏(株式会社SmartHR) 出典:パートナービジネスのTier戦略と組織攻略のリアル ― スマートドライブ×SmartHR(partnersales.biz セミナーレポート)

だから、大手は 「1事業部 = 1社」「1拠点 = 1社」 で見直します。同じ社名でも、A事業部はTier 1、B事業部はTier 3、ということは普通に起こります。むしろ、それを見分けないと支援リソースは霧散してしまうのです。

05

「絞る」と「集中投資する」は別の話

ここまで読むと「結局、パートナー数を減らせばいいのか?」と思われるかもしれません。違います。

パートナー数を絞るべきなのは、リソースが極小(部門長兼任で1〜2名)の場合だけ。それ以外は、パートナー数は維持しながら、Tier運用で投資先を可視化する のが基本戦略です。

全体の約5%ぐらいのパートナー様に注力先を決めて、そこに担当者を張って日々コミュニケーションを取っています。
— 冨樫嘉一 氏(株式会社ラクス) 出典:急成長スタートアップを支えるパートナーセールスのリアル(partnersales.biz セミナーレポート)

パートナー数自体を減らしているのではなく、「投下リソース=担当者を張る対象」を全体の 5% に絞っているという運用です。残り 95% との関係を切るわけではない、というのがポイントです。

さらに、Tier = 静的なランクではなく 「投資配分の可視化レイヤー」 として動的に運用する視点もあります。

Tier 2やTier 3、つまり売上までの中長期的な時間軸のところに早めからリソースやコストをかけていかないと将来的な成長を見込めない。
— 高田亮介 氏(株式会社スマートドライブ) 出典:パートナービジネスのTier戦略と組織攻略のリアル ― スマートドライブ×SmartHR(partnersales.biz セミナーレポート)

Tier 1 だけに張ると、数年後の Tier 1 候補が枯渇します。だから Tier 2 / Tier 3 にも前倒しで投資する。「絞る」ではなく「配分する」発想です。

06

「注力パートナーから紹介はくる」── それは科学化されているか?

この章で扱った判定軸を提案すると、しばしばこんな反応が返ってきます。

「うちはなんだかんだ、注力パートナーから紹介がくる。今のやり方で回っているから、わざわざ判定軸とかいらない」

その通り、回っているのは事実でしょう。けれど、回っている 理由 は説明できるでしょうか?

・なぜそのパートナーから紹介が来るのか
・どの担当者が、どんな話題のときに動いてくれるのか
・他のパートナーに同じ条件を整えれば、同じように紹介が来るのか

ここが言語化されていなければ、それは 結果論 です。たまたま機能している関係を「うちのやり方」と呼んでいるだけ。再現できないものは、伸ばせません。

再現性のある組織化が難しいという考え方からも、こういった分け方をしています。
— 高田亮介 氏(株式会社スマートドライブ) 出典:パートナービジネスのTier戦略と組織攻略のリアル ― スマートドライブ×SmartHR(partnersales.biz セミナーレポート)

Tier 区分は、ランク付けではなく 科学化の手段 です。誰がやっても同じ判定ができる軸を作ること。それができれば「いま回っている関係」を、組織として再現可能な資産に変えていけます。

この章の含意
重点パートナーを 科学化する とは、必須条件で足切りし、加点条件でスコアリングし、Tier運用で支援差を設計することです。これができれば「いま回っている関係」を 再現可能な仕組み に変えられます。

そして、Tier運用のためのデータ ── 営業人員数、マージン反映度、決裁者接点、共同マーケ実績 ── は、すべて 記録(System of Record) として持てます。次章以降では、その記録の構造と、そこから「次の一手」を導く仕組み(System of Action)を扱っていきます。
語句
Tierティア
パートナーを重要度別に分類する区分(Tier 1 / 2 / 3 など)。重点パートナー設計の基本概念。
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