A5 / RESOURCE

キーマンの探し方
— 5階層のキーマン語彙

「赤の他人に、保有プロダクト以外を売ってきてもらう」── これがパートナーセールスの本質。
その担い手はひとりではなく、5つの階層に分かれて存在しています。

パートナーセールスは、突き詰めればこの一行に集約されます ── 赤の他人に、保有プロダクト以外を売ってきてもらう。冷静に考えると、これはとても不思議な行為です。資本関係もなく、雇用関係もなく、自社の評価制度も及ばない人に、こちらの商材を売ってもらう。

「キーマンを見つけよう」と言うとき、その「キーマン」を ひとつの語 で扱ってしまうと、この不思議さが見えなくなります。実際は、5つの階層に分かれた別々の役割があります。

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5階層のキーマン語彙

パートナー企業の中には、種類の違うキーマンが共存しています。それぞれ動機も、動かし方も、観測できるシグナルも違います。

5階層のキーマン語彙
  1. 決裁者 事業部の方針・予算配分を決める役職者。提携の経営判断を担う
  2. メインカウンターパート 日々の窓口。情報の翻訳機能。経営方針を現場に落とし込む
  3. トップセールス 現場で実績を作っている営業。組織内で「あの人」と名前が挙がる
  4. チャンピオン 自社プロダクトを社内で推進してくれる旗振り役。ファンに近い存在
  5. 案件創出者 具体的に提案・紹介を出してくれる現場担当。日々の動きの源

この5つは、別々の人物のこともあれば、ひとりが2〜3階層を兼ねていることもあります。重要なのは、最初から「キーマン」をひとつの肩書で探さないことです。会社ごとに、どの階層に重力があるかが違います。

組織内での各部署(企画、現場)のキードライバーを見極めた上で正しいアプローチを行うことが重要。ある会社は企画部門を抑えると全国の営業に波及していくっていうパートナー企業もあれば、一方で企画部門の人たちを抑えても、なかなか営業現場に落ちなくて結果として営業現場を抑えることが重要というパートナー企業もあります。
— 三宅 氏(HENNGE株式会社) 出典:パートナー売上比率9割以上!HENNGE・LINE WORKSの2社の秘密に迫るパートナーセールスセミナー(partnersales.biz セミナーレポート)

企画部門が効く会社もあれば、現場直撃が効く会社もある。同じ「キーマン」という言葉でも、各社で居場所が違うのです。だからこそ、5階層の語彙で 地図 を描く必要があります。

02

役職者にキーマンを置く

5階層の中でも、決裁者とメインカウンターパートは 役職者 に置くのが基本です。これは経験則ではなく、組織の意思決定構造から導かれます。

キーマンは全て役職者に置くことを大事にしています。現場の方針を決めているのは部長や課長だということもありますし。
— 清水健太 氏(株式会社SmartHR パートナービジネス事業本部 第2アライアンス営業部 部長) 出典:パートナービジネスのTier階層・重要度ランク戦略と組織攻略のリアル ― スマートドライブ×SmartHR(partnersales.biz セミナーレポート)

現場の動きは、現場の意志ではなく、その上位の方針で決まります。だから、現場の担当者だけと関係を作っても、方針が変わった瞬間に動きが止まります。役職者にキーマンを置く、というのはこの構造を踏まえた選択です。

その業界向けに売っていた事業部長や執行役員などを探すと、一発で突破できたりする。
— 小出 氏(株式会社エイジレス) 出典:事例から学ぶ、パートナーセールスの全体像と活用方法について(partnersales.biz セミナーレポート)

営業顧問領域での発言ですが、原理は同じです。事業部長・執行役員クラスは、その配下のチームを動かす権限と動機を持っています。担当者ベースの関係を10本作るより、役職者ベースの関係を1本作るほうが、結果として広く・速く動きます。

03

キーマンが居住する部署を見つける ── 入口の作り方

役職者にキーマンを置くと言っても、最初からその役職者と接点があるわけではありません。むしろ多くの場合、「そもそもどの部署にキーマン候補がいるのか」がわからない状態から始まります。

ここで効くのが、部署単位での入口探しです。

「法人営業部」「地域創生部」など、ビジネスマッチングを担っていそうな部署に直接つながる番号を調べます。適切な部署に電話をつなぐ工夫として「ビジネスマッチングの件で」「アライアンス提携の件で」と要件を伝えると、適切な部署に回してもらえる可能性が高い。
— 米田知美 氏(クラフトバンク株式会社) 出典:対地銀アライアンス戦略~パートナー開拓から成果創出まで~(partnersales.biz セミナーレポート)

地銀のような大組織でキーマンを探す現場感そのものです。「キーマンは誰か」ではなく「キーマンが居住していそうな部署はどこか」から逆算する。これは5階層の地図を、外側から埋めていく実装的な手順です。

04

駐在型関係構築 ── 名刺交換が指標になる

5階層のキーマンを見つけたあと、関係を深めるフェーズで効くのが 駐在型 のアプローチです。これは比喩ではなく、物理的にパートナー企業内に入り込むことを指します。

常駐受け入れ自体が成果であり、全員との名刺交換を指標に。
— 田畑友紀 氏(サイボウズ株式会社 パートナー第2営業部) 出典:パートナー様からの商談数(紹介数)を伸ばすためにやるべきこと(partnersales.biz セミナーレポート)

「常駐させてもらえる」ということ自体が成果指標になるという発想です。短期の営業訪問では会えない人 ── 別チームの担当者、現場リーダー、決裁者の周辺の人 ── に、駐在の延長で出会えます。名刺交換の枚数は、5階層の地図を埋めていく進捗そのものです。

関係性ができているからこそ「1日張り付いていいよ」と言ってもらえるのは、関係性がきちんと作れている証拠。
— 橋本 氏(株式会社大塚商会 SIプロモーション部 プランニンググループ 次長) 出典:スタートアップが大企業とどう組むか?―HQ×大塚商会、協業の舞台裏(partnersales.biz セミナーレポート)

パートナー側の登壇者がこう語っているのが象徴的です。「1日張り付かせてもらえる」関係は、パートナー側にとっても歓迎すべき状態。駐在は、ベンダー側の押し付けではなく、両者にとっての到達点として描かれています。

もちろん最初から駐在に到達できるわけではありません。前段として、足を運ぶ ── という最も基本のアクションがあります。

支店への飛び込みもしました。とあるメガバンクの大阪の支店に飛び込みをして、名刺を置いて。
— 清水健太 氏(株式会社SmartHR) 出典:パートナービジネスのTier戦略と組織攻略のリアル ― スマートドライブ×SmartHR(partnersales.biz セミナーレポート)
05

「ファン」を階層化する

チャンピオン・案件創出者の階層では、関係の深度を 段階分け して把握する運用があります。

パートナー企業内にサイボウズ「ファン」を増やすことが重要。ファンを「ファンセールス」「ファン予備軍」「受注予備軍」にカテゴリー分け。
— 田畑友紀 氏(サイボウズ株式会社) 出典:パートナー様からの商談数(紹介数)を伸ばすためにやるべきこと(partnersales.biz セミナーレポート)

ファン → ファン予備軍 → 受注予備軍、という3段階の語彙が、5階層のキーマン語彙とほぼ重なります。チャンピオン候補を「ファンセールス」、案件創出者の卵を「受注予備軍」として位置づけている、という読み替えが可能です。

さらに、勉強会の場で観察できるシグナルから、ファン候補を発見する運用もあります。

勉強会の場でたくさん話しかけてくださる方、説明に頷きながら聞く方、その後も質問を頻繁にしてくださる方。そういう方々とは自然とコミュニケーションが深くなり。
— 窪田 氏(株式会社HQ 事業開発部 担当部長) 出典:スタートアップが大企業とどう組むか?―HQ×大塚商会、協業の舞台裏(partnersales.biz セミナーレポート)

ファンは「探す」だけでなく「観察によって浮かび上がる」もの。勉強会の場が、シグナルの観測装置として機能しています。これは次章 A6 で扱う「行動シグナル」の入口でもあります。

06

大手は「1事業部 = 1社」で地図を描き直す

最後に、大手パートナーを相手にする場合の重要な原則です。「◯◯社のキーマンは△△さん」と一括りにすると、5階層の地図は瞬時に崩れます。

パートナーさんはトップダウン組織の傾向も強いと感じてます。方針にかなり左右されてしまう。
— 清水健太 氏(株式会社SmartHR) 出典:パートナービジネスのTier戦略と組織攻略のリアル ― スマートドライブ×SmartHR(partnersales.biz セミナーレポート)
金融機関は「本部から発信された施策に基づいて」支店が方針決定するため、「上の方針でグラッと紹介数が変わってしまう」可能性がある。
— 清水健太 氏(株式会社SmartHR) 出典:パートナービジネスのTier戦略と組織攻略のリアル ― スマートドライブ×SmartHR(partnersales.biz セミナーレポート)

大手では、本部 vs 支店、企画部門 vs 現場部門、事業部 A vs 事業部 B、というように方針が複層化しています。だから、5階層のキーマン地図は 1事業部 = 1社 単位で描き直す必要があります。

同じ社名の中で、A事業部のキーマンは部長クラスの決裁者主導、B事業部のキーマンは現場のチャンピオン主導、ということが普通に起こります。地図を1枚にまとめようとすると、どちらも掴めなくなります。

この章の含意
「キーマン」は単数ではなく、5階層の語彙 で記述される複数の役割の総称です。決裁者・メインカウンターパート・トップセールス・チャンピオン・案件創出者、それぞれに別の動機があり、別の見つけ方があります。

そして、5階層の中でも特に トップセールス案件創出者 ── つまり「実際に売ってきてくれる人」の発掘は、別軸の難しさを持っています。「組織のトップセールス」が「拡販のトップセールス」とは限らないからです。次章では、この逆説を行動シグナルから見抜く方法に踏み込みます。
語句
Tierティア
パートナーを重要度別に分類する区分(Tier 1 / 2 / 3 など)。重点パートナー設計の基本概念。
次に読むべき資料
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営業人材の発掘 — 行動シグナルから見抜く
「組織のトップセールス」と「拡販のトップセールス」は別人。シグナルから見抜く
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