Hubspot や Salesforce ── 汎用 CRM顧客管理システム は、直販を前提に設計された道具です。コンタクト(個人)と会社(企業)と商談(Deal商談・案件)を中心軸に置き、その周辺にメールや活動ログを紐付ける、というデータモデルが世界標準になっています。
この設計は直販には極めて優秀です。けれど、パートナーセールスに当てはめると、必要な構造の半分以上を持っていない、という事実が浮かび上がります。
業界登壇者が認める、汎用ツール運用の限界
SmartHR の清水氏は、業界の代表的なベンダーでありながら、運用の限界を率直に語っています。
このコメントには、いま業界が直面している現実が凝縮されています。「汎用ツール(スプシ・生成 AI)でやっている」、しかし「属人化して陳腐化する」、だから「しっかりデータベースを作ることが大事」 ── この三段論法が、汎用 CRM の限界をそのまま示しています。
CRM のデータモデル:直販前提の3軸
汎用 CRM の中核は、極めてシンプルな3軸です。
- Contact(コンタクト) 個人の連絡先情報。氏名、メール、電話、役職
- Company(会社) 企業の属性情報。業種、規模、所在地
- Deal(商談) 金額、ステージ、見込み確度
この3軸は、直販で「企業に対して個人にアプローチして商談を作る」モデルには完璧にフィットします。けれど、パートナーセールスは 4層構造(ベンダー → パートナー企業 → 担当者 → エンドユーザー)で動くため、企業と個人の関係が二重になります。3軸モデルでは、この二重性をうまく表現できないのです。
パートナーセールスに必要な、より多くの軸
パートナーセールスを科学的に運用しようとすると、3軸では足りません。少なくとも以下の軸が必要になります。
- パートナー(会社)× コンタクト 会社単位ではなく、社員ひとりひとりが観測対象
- 熟達度レベル このプロダクトを売る能力がどの段階か(未熟・実績あり・チャンピオン)
- 活動レベル 直近の接触頻度・反応速度・提案数
- 役割バッジ 決裁者/メインカウンターパート/チャンピオン/案件創出者などの役割識別
- チームパワー パートナー組織内で、自社プロダクトを推せる勢力の強度
これらは汎用 CRM の標準スキーマには存在しません。Hubspot で言えば、すべて「カスタムプロパティ」として手で増やしていく必要があります。
「Property を手で増やす」では追いつかない理由
実際の現場が、何をどこまで「手で」運用しているのか。スマートドライブの高田氏が、その手触りを生々しく語っています。
年次・同期関係・趣味 ── これらは、汎用 CRM の標準項目には絶対に載っていません。にもかかわらず、業界の最前線では「めちゃくちゃアナログ」に手作業で蓄積されているのが現実です。
ここに「Property を手で増やす」アプローチの構造的限界があります。
- 属人化 誰が何のために作った Property なのか、引き継ぎ時に消える
- 陳腐化 運用の変化に Property 設計が追いつかず、形骸化する
- 業界知見が乗らない パートナーセールスの実務知見(Tier 設計・キーマン分類)はベストプラクティスとして組み込まれていないため、すべてゼロから設計するしかない
業界横断の事実 ── Salesforce / Hubspot は単独で完結しない
2025 年 10 月のパートナーセールス質問会では、複数社が同じ実態を口にしました。
Salesforce を入れていても、必ず外側にスプレッドシート運用が漏れ出している ── これは、汎用 CRM 単独ではパートナーセールスの構造を保持しきれない、という業界全体の証言と読めます。「専用の構造を持っていないから、結局スプシに逃がす」という構図です。
この構図そのものが、清水氏の言う「属人化して陳腐化する」の発生源です。スプシに逃げた瞬間、データはサイロ化し、組織知になりません。
では、汎用 CRM に Claude CodeAnthropic 純正のコーディング AI 環境 のような汎用 AI を組み合わせれば足りるのか? ── この問いに正面から向き合うのが、次章のテーマです。
- CRMシー・アール・エム
- Customer Relationship Management。顧客との関係を一元管理するシステム。Salesforce や HubSpot が代表。コンタクト・案件・商談を扱うが、パートナー構造は持たない。
- Claude Codeクロード・コード
- Anthropic が公開する Claude を使ったコーディング用ハーネスの代表例。汎用コーディング領域に特化した agentic harness。
- Tierティア
- パートナーを重要度別に分類する区分(Tier 1 / 2 / 3 など)。重点パートナー設計の基本概念。
- Dealディール
- 営業上の取引機会・案件。CRM・SFA で管理される基本単位。