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直販との根本的な違い
— 4層構造が組織を変える

意思決定の伝播経路が長くなった瞬間、組織のあり方が変わる。
「直販の延長線上にパートナー営業がある」という認識が、最初のつまずきです。

パートナーセールスを始めるとき、多くの組織が無意識に置く前提があります。「直販の営業ノウハウを、パートナー経由でも展開する」── 一見、もっともらしい発想です。けれど、これが最初のつまずきになります。

直販と間販は、営業の延長関係ではありません。意思決定の伝播経路の長さ が違うため、組織のあり方そのものが変わります。この章では、その構造の差を解きほぐしていきます。

01

2層と4層 ── 経路の長さが組織を変える

直販の構造はシンプルです。ベンダー(自社)→ エンドユーザー の2層。営業担当が顧客と直接対話し、提案し、契約します。情報も意思決定も、ほぼリアルタイムで往復します。

パートナーセールスは違います。ベンダー → パートナー企業 → 担当者 → エンドユーザー の 4層。間に「翻訳者」が2階層挟まります。情報は伝言ゲームを経由し、意思決定は途中の階層で滞留したり、書き換えられたりします。

この経路の長さは、現場でこんな形で立ち上がってきます。

最初の数年間は直販とパートナーの併用でしたので、直販とバッティングしてパートナーさん側が直販に負けてしまうということもよく起こっていました。
— 三宅 氏(HENNGE株式会社) 出典:パートナー売上比率9割以上!HENNGE・LINE WORKSの2社の秘密に迫るパートナーセールスセミナー(partnersales.biz セミナーレポート)

直販とパートナーが同じ顧客にアプローチして潰し合う ── これは個別のオペミスではなく、4層構造を直販ロジックで運用したときに 必然的に 起きる現象です。だからこそ、ルール設計が必要になります。

お客様の判断に委ねています。ただし、直販側でも営業フェーズが一定以上進んでいる場合には、申し訳ありませんが直販対応とさせていただくルールになっており、パートナー様にも最初にその旨をしっかりお伝えしています。
— 鈴木竜太 氏(株式会社LayerX 執行役員) 出典:OBC・LayerXの2社から学ぶ、アライアンス戦略の型(partnersales.biz セミナーレポート)
02

「翻訳者」が介在するという事実

4層構造の中央にいるパートナー企業と担当者は、単なる経路ではありません。彼らは 翻訳者 です。ベンダー側の文脈・専門用語・提案価値を、エンドユーザーが日常的に使っている語彙に変換します。

この翻訳機能は、エンドユーザー側からも明確に求められています。

クラウド市場の成長と共に、エンドユーザーから「HENNGE Oneを取り扱えるパートナーはどこか?」という問い合わせが増えました。
— 三宅 氏(HENNGE株式会社) 出典:パートナー売上比率9割以上!HENNGE・LINE WORKSの2社の秘密に迫るパートナーセールスセミナー(partnersales.biz セミナーレポート)

顧客は「ベンダーから直接買う」のではなく、「自社が普段使っているパートナー経由で買いたい」と要求します。つまり、翻訳者を介すこと自体が、エンドユーザーにとっての価値になっています。直販はこの価値を提供できません。

03

インセンティブが二重になる

翻訳者が介在するということは、動機づけの構造も二重になるということです。直販なら、自社の評価制度ひとつでチームは動きます。パートナー経由はそうはいきません。

パートナー 企業 としての方針(経営層が決める注力商材)と、その下にいる 担当者個人 が背負う KPI業績を測る主要指標 は、別物です。

そのパートナーさんが「今、何を売りたいのか?」ということを徹底的に調べます。例えば、某OA機器メーカーのパートナーさんであれば「営業担当がどの商材を1番売りたいのか」「どの商材のKPIを持たされているのか?」というのを徹底的に調べます。
— 荒井 氏(LINE WORKS株式会社) 出典:パートナー売上比率9割以上!HENNGE・LINE WORKSの2社の秘密に迫るパートナーセールスセミナー(partnersales.biz セミナーレポート)

会社が売りたい商材と、現場が売らされる商材は別物 ── これが4層構造の現実です。直販ロジックでは「会社が売る」と決めれば現場も動きますが、パートナー経由では「会社が売ると決めても、現場が動くかは別問題」になります。

04

情報は双方向に劣化する

4層構造のもうひとつの帰結は、情報の劣化 です。経路が長いほど、伝言の途中で情報は薄まり、書き換えられ、消えます。

ベンダー側がパートナーに伝えた製品情報・販促キャンペーン・価格改定は、パートナー企業の窓口担当を経由して、現場の営業に届きます。逆方向 ── 現場で起きている顧客の反応・競合との比較・受注理由 ── も、同じ経路を逆走してベンダーに戻ります。

どちらの方向でも、間に挟まる人の数だけ情報は欠落します。直販なら同じ営業担当が両方を持っているので欠落しません。パートナー経由では、構造的に欠落します。

この欠落を放置すると、典型的なすれ違いが起きます。ベンダーは「丁寧に説明したのに売れない」と感じ、現場は「製品の良さがよくわからないまま勧められない」と感じる。両方とも誠実に動いていても、間で情報が落ちている。

05

直販だけでは飛躍できないという経営判断

では、4層構造の摩擦が大きいなら直販に戻せばいいのか ── そういう話ではありません。むしろ業界の有力プレイヤーは、直販の限界を経営判断として認め、パートナー経由に大きく舵を切っています。

現在はパートナー経由が逆転しました。2023年時点では直販のみでしたが、この二年間でパートナー経由が逆転。
— 稲垣 氏(株式会社HQ 執行役員 事業開発部長) 出典:スタートアップが大企業とどう組むか?―HQ×大塚商会、協業の舞台裏(partnersales.biz セミナーレポート)
最終的には完全にパートナー経由にシフトするという決断を下しました。その結果、日本全国に支店を持つSIerやディストリビューターの営業力を活かし、これまで以上により広範囲の顧客にアプローチできるようになりました。
— 三宅 氏(HENNGE株式会社) 出典:パートナー売上比率9割以上!HENNGE・LINE WORKSの2社の秘密に迫るパートナーセールスセミナー(partnersales.biz セミナーレポート)
このまま直販だけで飛躍的な成長をし続けられるのか。
— 小此木 氏(クラウドサーカス株式会社) 出典:事例から学ぶ、パートナーセールスの全体像と活用方法について(partnersales.biz セミナーレポート)

直販を否定しているわけではありません。直販で届く範囲には 構造的な天井 があり、それを超えて伸びるためには4層構造を引き受ける必要がある、という判断です。

06

「直販の延長」では、パートナーは動かない

ここまでの整理を踏まえると、ひとつの問いが立ち上がります。

「直販の営業ノウハウを、パートナー経由にもそのまま展開すれば回るのでは?」

この問いは、4層構造の前提を見落としています。直販で機能していたものは、2層の経路 を前提に最適化されています。経路が4層になった瞬間、同じ手法は機能しません。

・伝言ゲームを前提にした情報設計(要点を圧縮し、現場で再生できる形にする)
・二重インセンティブを前提にした制度設計(会社の方針 × 担当者個人のKPI)
・劣化を前提にした記録設計(誰が・いつ・どんな情報を伝えたかを残す)

どれも、直販のままでは要らなかったものです。パートナー経由になった瞬間、これらが 必須 になります。「直販の延長」では、パートナーは動かないのです。

この章の含意
直販と間販は 意思決定の伝播経路の長さ が違うため、必要な道具立てが違います。4層構造を引き受けるとは、翻訳者の介在・インセンティブの二重性・情報の劣化、これらを前提にした組織と仕組みを作ることです。

そして、4層になることは「やりにくくなる」ことではありません。経路の長さは、同時に レバレッジの大きさ でもあります。次章では、その逆側の側面 ── パートナーセールスがなぜ直販より大きな売上を作れるのか、その「テコの構造」を扱っていきます。
語句
KPIケー・ピー・アイ
Key Performance Indicator。組織や事業の業績を測る主要な指標。
次に読むべき資料
A2 / NEXT
パートナーセールスのレバレッジ理論
なぜパートナー経由は直販より大きい売上を作れるのか。テコの構造を分解する
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