A6 / RESOURCE

営業人材の発掘
— 行動シグナルから見抜く

「組織のトップセールス」と「拡販のトップセールス」は別人。
行動シグナルを観測する仕組みを持てば、誰がやっても同じ発掘ができます。

パートナーセールスが直面する最も誤解されやすい問いがあります。「拡販してくれそうな営業を見つけたい。誰に当たればいいか?」── 多くの場合、紹介されるのはパートナー社内の トップセールス です。けれど、ここに逆説があります。

組織で売れている人と、自社商材を拡販してくれる人は、しばしば 別人 です。この章では、その逆説を踏まえて、行動シグナルから拡販人材を見抜く方法を扱います。

01

「組織トップセールス ≠ 拡販トップセールス」の逆説

パートナー企業内で実績を出している営業は、優秀です。けれど、その優秀さが「自社商材を売り広げてくれる」方向に向くとは限りません。

「この人は出世しそうだな」という方に絞っていくのが、ビジネスマッチングを広げる上でのポイント。感度が高くても個人プレイヤーで完結する人もいるので見極めが必要。
— 北川誠 氏(株式会社あしたのチーム) 出典:対地銀アライアンス戦略~パートナー開拓から成果創出まで~(partnersales.biz セミナーレポート)

「感度が高くても個人プレイヤーで完結する人」── ここが本章の核心です。情報感度が高く、新しい商材にすぐ反応してくれる営業はいます。けれど、彼らが 個人で完結する タイプだと、自社商材は彼ひとりの引き出しに留まります。組織には広がりません。

逆に、組織を動かせる人 ── 上司に提案を上げ、同僚を巻き込み、後輩に引き継ぐ ── そういう人こそが拡販に向きます。それは多くの場合、「出世しそうな人」と一致します。

支店長は支店全体の業績で評価されます。課長や支店長代理クラスになると個人の出世意欲が強く、自分の数字を上げようと積極的に動く。
— 北川誠 氏(株式会社あしたのチーム) 出典:対地銀アライアンス戦略~パートナー開拓から成果創出まで~(partnersales.biz セミナーレポート)

階層によって動機が違います。支店長は組織の数字、課長クラスは個人の出世意欲、若手は学習機会 ── それぞれの動機を見抜いて当てる必要があります。

02

「神様」型ボトルネック営業の罠

もうひとつ、見落とされがちな罠があります。組織で「あの人がいないと回らない」と言われているベテラン営業 ── ここに頼ると、拡販はむしろ縮小します。

営業の役割とは何かという課題があります。営業の存在意義は、準顕在層をいかに引っ張ってこられるかにあると考えています。
— 橋本 氏(株式会社大塚商会 SIプロモーション部 プランニンググループ 次長) 出典:スタートアップが大企業とどう組むか?―HQ×大塚商会、協業の舞台裏(partnersales.biz セミナーレポート)

ベテラン営業が顕在化した案件をクロージングするだけでは、組織の成長は止まります。準顕在層を掘り起こす役割 ── これが拡販の本質です。「神様」型のベテランに案件を集めても、案件総量は増えません。

さらに、別角度の現実があります。実績の出ていない営業は、自社商材を扱う余力すらありません。

実績が上がっていない営業マンは自社のソリューション以外を売ることに労力避く余力がない。
— 樫山知拓 氏(株式会社インフォマート)/ 文意要約 出典:パートナー契約後、最初に実施すべきアクション(partnersales.biz セミナーレポート)

この2つの現実を重ねると、拡販人材の輪郭が見えてきます ── 自社商材で実績が出ていて、かつ 個人完結ではなく組織を動かせる 人。この条件に合う人を、勘ではなくシグナルで見つけたい、というのが本章の問いです。

03

行動シグナル ── 観察可能な動きから見抜く

拡販人材は、観察可能な行動シグナルを残します。雑談や印象ではなく、客観的に取れるシグナルです。

質問が来る=「提案したい案件がある」「興味がある」というサイン。
— 小此木 氏(クラウドサーカス株式会社) 出典:事例から学ぶ、パートナーセールスの全体像と活用方法について(partnersales.biz セミナーレポート)

質問頻度は、最もシンプルで強いシグナルです。質問が来るということは、その人の頭の中で具体的な顧客・具体的な提案場面が動いている、ということ。質問が増えた営業は、近い将来に提案を出してくる可能性が高いのです。

大きく2つの特徴があります。勉強会などの場で積極的に関与してくれる方。接点を持った後も主体的に関わってくれる方。このアクションを取るパターンは若手の方々が多い傾向にあります。
— 佐々木千穂 氏(株式会社Grow up) 出典:第二回PSラジオ(partnersales.biz セミナーレポート)

勉強会での 積極的な関与、そして その後の主体性。この2つを満たす人がワークするパートナー営業である、という観察です。さらに「若手に多い」という傾向シグナルも添えられています。

観察可能な行動シグナル(一部)
  1. 質問頻度 具体的な顧客・場面に関する質問が増える
  2. 勉強会での関与 発言する、頷く、メモを取る、質問する
  3. 接点後の主体性 勉強会後に自分から連絡してくる、提案相談を持ち込む
  4. 提案可否の確認 「この顧客に出していいか」を能動的に確認してくる
  5. KPI業績を測る主要指標 保有 パートナー社内で自社商材の KPI を持つようになる

最後の「KPI 保有」は、行動シグナルの中でも最も重い指標です。

そのパートナーの営業部門が自社の商材に対してKPIをしっかり持ってくれるようになっているかというのは1つの判断軸になっています。
— 荒井 氏(LINE WORKS株式会社) 出典:パートナー売上比率9割以上!HENNGE・LINE WORKSの2社の秘密に迫るパートナーセールスセミナー(partnersales.biz セミナーレポート)
04

「席の場所」と「類友」── 物理空間から読み取る

行動シグナルは、デジタルなログだけではありません。勉強会や訪問の現場で物理的に観察できるシグナルもあります。

真剣にメモを取る人の席の場所と特徴を覚えておく。「類友」の発想で「成績の良い営業担当の周囲に注目」。パートナービジネスって、「誰から聞いたか」が本当に大きい。
— 佐々木千穂 氏(株式会社Grow up) 出典:第二回PSラジオ(partnersales.biz セミナーレポート)

この発言には、3つの実装的な観察軸が同居しています。

席の場所:前列に座るか、後列に座るか。後列でもメモを取る人は意外と本物
真剣さ:メモの取り方、視線、頷きの頻度
周囲の人脈:成績の良い営業の隣にいる人は、その営業から影響を受けている可能性が高い

「類友」の発想は、組織内のインフルエンス構造を読む方法でもあります。誰と仲が良いか、誰のあとに同じ動きを取るか ── そのネットワーク構造の中に、次の拡販人材が現れます。

さらに、複数人から推薦されるという社内ネットワークシグナルもあります。

複数人から名前が上がるような「イケてる営業の人」は優先的にアプローチしたい。新しい物好きの人はよく意識している。
— 高田亮介 氏(株式会社スマートドライブ) 出典:パートナービジネスのTier階層・重要度ランク戦略と組織攻略のリアル ― スマートドライブ×SmartHR(partnersales.biz セミナーレポート)

「複数人から名前が上がる」── これは社内での影響力の指標。「新しい物好き」── これは新規商材への適応力の指標。両方を兼ねている人は、拡販人材として最も投資効率が高くなります。

05

拠点単位での「最初の1人」を見つける

拡販人材は、最初から組織全体に散らばっているわけではありません。拠点ごとに1人ずつ 立ち上がる、というのが現場の感覚です。

各拠点に「インフルエンサー的なセールス」が立ち上がってきた。その姿を見て「自分だってできる」と他の営業も刺激を受ける。
— 橋本 氏(株式会社大塚商会) 出典:スタートアップが大企業とどう組むか?―HQ×大塚商会、協業の舞台裏(partnersales.biz セミナーレポート)

この観察が示しているのは、拡販人材の発見プロセスは 連鎖的 だということです。最初に拠点で1人が立ち上がる。周囲がその姿を見て触発される。同じ拠点の2人目、3人目が動き出す。

だから、各拠点で「最初の1人」を見つけることに集中する価値があります。10拠点に10人の拡販人材を一気に作るより、1拠点で1人のインフルエンサーを丁寧に育てて、そこから波及させる ── この発想は A4 で扱った「Tier運用」とも重なります。

逆に言えば、「最初の1人」を見つけられないまま支援リソースを薄く広く撒くと、どの拠点でも火がつかないまま終わります。これが、行動シグナルを 拠点単位 で見る意義です。

06

シグナルの記録なくして、発掘の再現性はない

ここまで挙げた行動シグナル ── 質問頻度、勉強会での関与、接点後の主体性、提案可否確認、KPI保有、席の場所、類友、社内推薦、新しい物好き ── は、すべて 観察可能 です。けれど、観察したものを 記録 しなければ、組織として使えるデータにはなりません。

多くの組織で、これらのシグナルは個々の担当者の頭の中にしか存在しません。担当者が変わると、シグナルの記憶もリセットされます。「あの人は質問が多い」「あの拠点はリーダーが熱心」という肌感覚は、記録されないまま消えていきます。

拡販人材の発掘を再現可能にするには、シグナルを 構造化された記録 として残す必要があります。

・誰が、いつ、どんな質問をしたか
・どの勉強会で、誰が積極的に関与していたか
・接点後、誰が自分から連絡してきたか
・誰が、いつ、自社商材の KPI を持ち始めたか

これらが時系列で残れば、「あの人は3ヶ月前から質問が増えていた」という前兆が、後から振り返ったときに見えるようになります。担当者が変わっても、新しい担当者が同じ判断にたどり着けます。これが、属人化を超えて拡販人材を発掘する仕組みの核です。

この章の含意
拡販人材は、勘ではなく 行動シグナル から見抜けます。質問頻度・勉強会での関与・接点後の主体性・KPI保有 ── 観察可能なシグナルを 構造化された記録 として残すことが、誰がやっても同じ発掘を可能にします。

ここまで A1〜A6 で扱ってきたのは、すべて 記録(System of Record) として持てる情報でした。直販との違い、レバレッジ係数、二重インセンティブ、Tier、5階層のキーマン、行動シグナル ── これらが構造化されて初めて、AI による「次の一手」の提案が成立します。次章 B では、この記録が既存のツール(PRMパートナー関係管理CRM顧客管理システム・個人ツール)でなぜ取れないのか、その構造的な限界を見ていきます。
語句
PRMピー・アール・エム
Partner Relationship Management。パートナー企業との関係管理を支援するシステム領域。従来は商談管理に偏り、関係性の管理が手薄だった。
CRMシー・アール・エム
Customer Relationship Management。顧客との関係を一元管理するシステム。Salesforce や HubSpot が代表。コンタクト・案件・商談を扱うが、パートナー構造は持たない。
KPIケー・ピー・アイ
Key Performance Indicator。組織や事業の業績を測る主要な指標。
Tierティア
パートナーを重要度別に分類する区分(Tier 1 / 2 / 3 など)。重点パートナー設計の基本概念。
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